あ め だ ま 図 書 館

読んだ本を紹介!本の世界へようそこ!

『将棋の子』 大崎善生

ノンフィクション系100選とかで見かけて、

手に取った本作。

「目の見えない白鳥さんとアートを見に行く」で

ノンフィクション面白やない!から

私を知らない世界に連れて行ってくれないか!

と次は将棋の世界を覗き込むことにした。


『将棋の子』

 

f:id:lollypoppit-blog:20240110121049j:image


 

最近では藤井聡太がすごいと

テレビでよく見かける、

その前では羽生善治の話が

たくさん入ってきていた。

日本を騒がす天才棋士の裏で

棋士になる狭き門「奨励会」で

年齢制限や、己よりも天才に出会い

挫折し、棋士になれなかった

悲しき青年達の挫折とその後を

描かれている。

 

私は将棋を小学校の頃爺さんを倒す為に、

少し勉強し、小学校では

ノートを切って作った手作り将棋で

小学校内で将棋を指していたことがある。

定石を覚えるみたいなところで

心折れ、私は机より外で遊びたいタイプの

子供に育っていった。

この時週刊少年マガジンで連載していた

「コマコマ」って漫画にも触発され、

棋士の道について考えて調べたことがある。

狭き門と練習時間みたいなものを聞いて、

ここまでは頑張れないなと

目指す手前で終わった。

 

そんな私は将棋には少し思い入れはあるものの

棋士に対してどこか変態的な変わり者の道

という印象を持っている。

 

本作ではその変態的な道の天才が夢敗れ、

挫折を味わった後の話が描かれているのだが、

「挫折」

この大きな経験が彼らを作る悲しき、素晴らしい

彼らだけの人生を感じた。

私はこんな挫折を経験することはなかったし、

これからこんな挫折を経験することは

できないだろう。

挫折から生きる彼らに知らない世界を感じずにはいられなかった。

 

あめだま的評価★★★☆☆(3/5)

 

 

『将棋の子』

初出版:2003年5月15日

 

著者:大崎善生

2000年43歳で「聖の青春」で作家デビュー。

新潮学芸賞を受賞。

2001年「将棋の子」で講談社ノンフィクション賞を受賞。

2002年「パイロットフィッシュにて吉川英治文学新人賞を受賞。

大学に行かず将棋をうち、中退し、日本連盟に就職。雑誌編集部に移動し、友人からのきっかけで

作家デビュー。

 

 

 

-あらすじ-

将棋の子(天才少年)たちが、プロ棋士をめざして苛烈に戦う奨励会棋士たちの既得権を守る理不尽なルール(年齢制限や三段リーグ)。 競争に敗れ退会し、一般社会に出た者にとって、奨励会の修業は限りなく無に近い。 「そして、悩み、戸惑い、何度も何度も価値観の転換を迫られ、諦め、挫折し、また立ち上がっていく。」

 


-ネタバレ有りあめだま的感想-

 

〜夢の跡〜

 棋士になるには、人生の全てを

 捧げなければならない。

 私のようにゲームをしたり、大学で勉強、

 そんなよそ事に、逃げ道を作ってしまうと

 心のどこかに弱さが出て、

 勝てなくなってしまう。

 私にこれだけをただ、ただ、真剣に

 夢中で人生をかけて長い時間取り組んだことは

 生きてきたなかで今まであったであろうか。

 中学ではプロ野球選手になりたいと

 野球に打ち込んでいたが、

 もちろん学校の勉強をこなし、

 友達とゲームや漫画、テニスやバスケ

 気になるものには好き放題

 手を出していた。

 そんな私には想像もつかない世界が

 そこにはある気がする。

 その世界にどっぷり浸かっていた彼らは

 突如裸一つで世界から追い出される。

 そこには黒い海が広がっていることだろう。

 自分が天才だと信じた青年は挫折とともに

 黒い海でもがき苦しむ。

 この作品で大筋で描かれてる北海道の成田。

 成田は将棋のために家族ごと東京へ

 移住。両親はプロ棋士を諦めたと共に

 亡くなってしまう。

 成田が感じた挫折は計り知れないだろう。

 どこか人生を諦めてしまったような中、

 借金を増やし、人妻に恋をする。

 そんな成田だが奨励会の日々を誇りに生きる。

 

 「将棋がね、

 今でも自分に自信を与えてくれているんだ。

 こっち、もう15 年も将棋指していないけど、

 でもそれを子供のころから夢中になって

 やって、大人にもほとんど負けなくて、

 それがね、そのことがね、

 自分に自信をくれているんだ。

 こっちお金もないし仕事もないし、

 家族もいないし、今はなんにもないけれど、

 でも将棋が強かった。

 それはね、

 きっと誰にも簡単には

 負けないくらいに強かった。

 そうでしょう?」

 

 夢の跡、彼は過ごした日々を自信に、

 新しい舟をこしらえ、黒い海をいつか

 渡りきるだろう。

 

 私にはもう経験できないものを感じた。


 成田は故郷の北海道に戻り、就職し、

 今では自分が育ったように、

 子供達に将棋を教えている。

 

 私が中でも気になったのは、

 棋士の道を自ら諦め、

 師匠に相談して、海外へ放浪を始めた青年だ。

 彼は師匠のなんとなくの意見を採用し、

 海外へ旅立つ。

 若くし結婚し、その場その場で

 ティッシュ配りなどを行い様々な場所を

 転々としていく。

 黒い海をぷかぷかだ浮いて楽しむような

 そんな自由を感じた。

 この前に読んだ「女のいない男」の医者を

 思い出した。

 「わたしは何者なのか。」

 わたしは、今の生活を狭く拘束されて

 いるように感じているのかもしれない。

 

 

 

将棋の世界の厳しい世界の裏の血の通った、

人間模様がこの本で出会うことができた。

少し残念だなと感じたのは、

作者大崎目線が多く、成田以外の青年たちの

直接的な会話的な感情的なものが少なく

その場にいるというより、

大崎から話を聞いた態度になっていしまっている。

もっと入り込みたかった。

 

どうも1作目の棋士の村山を描いた、

「聖の青春」のほうが

評価が高いようなので

いずれはこちらも読んでみようと思う。